3年待って、選定療養の眼内レンズを始めます−PureSeeの登場で変わった、いわみ眼科の白内障手術と眼内レンズ選び−
2023年、当院は「当院で採用している眼内レンズについて」という記事を公開しました。
その記事では、保険適用の単焦点レンズやLENTIS Comfortなどをご紹介する一方で、いわゆる「プレミアムレンズ」、制度上の選定療養の眼内レンズは採用していないとお伝えしました。
あれから約3年。
このたび、いわみ眼科でも選定療養の眼内レンズを開始することにしました。
高価なレンズをおすすめしたくなったからではありません。
私たちが待っていた眼内レンズが、ようやく登場したからです。
なぜ、これまで選定療養を行わなかったのか
これまで、老眼への対応を目指したプレミアムレンズの中心は、「回折型」と呼ばれる眼内レンズでした。
レンズ表面に同心円状の構造を設け、入ってきた光を遠方・中間・近方へ振り分けることで、眼鏡を使う場面を減らします。
裸眼で見える距離を広げやすい一方、回折型には次のような特徴があります。
- 夜間に光の輪やにじみが見える
- ハロー・グレアを感じることがある
- 単焦点レンズとはコントラストや画質が異なる
- 見え方に慣れるまで時間がかかることがある
さらに、黄斑疾患などの網膜疾患や緑内障がある目では、もともと受け取れる視覚情報が低下していることがあります。
そこに、光を複数の焦点へ振り分けるレンズを入れると、期待した視力や見え方が得られにくくなる可能性があります。
私は網膜疾患を専門とし、緑内障の患者さんも多く診察しています。
そのため当院では、眼鏡を減らすこと以上に、見え方の質を守ることを優先し、これまで選定療養の眼内レンズを採用してきませんでした。
2025年6月、PureSeeが発売されました
その状況を変えたのが、TECNIS PureSee(テクニス ピュアシー)です。
PureSeeは、従来の回折型レンズのような同心円状の構造を使わない、非回折型の焦点深度拡張型眼内レンズです。
焦点深度拡張型は、英語のExtended Depth of Focusを略して、EDOFと呼ばれます。
PureSeeは、単焦点レンズに近い見え方の質を保ちながら、ピントの合いやすい範囲を連続的に広げることを目指しています。
さらに2026年3月には、米国FDAからEDOF眼内レンズとして正式に承認されました。
単焦点レンズと同程度の遠方視力を維持しながら、中間視力を改善するレンズとして評価されています。
見え方の質を大切にしながら、眼鏡を使う場面を減らしたい。
PureSeeの登場によって、ようやく当院でも、その希望に応えられる可能性が広がったと考えました。
私にとっては、まさに「待っていたレンズが来た」という感覚でした。
PureSeeでは、どの距離が見やすくなるのか
遠方に合わせる場合
PureSeeを遠方に合わせると、遠くからおおむね50cm前後までが見やすくなります。
運転や外出だけでなく、次のような日常生活でも眼鏡を使う場面を減らせる可能性があります。
- パソコンを見る
- 食事をする
- 鏡に映った自分の顔を見る
- 化粧や洗面をする
- タブレットを見る
特に、これまで遠方を裸眼で見てきた方は、「老眼がかなり楽になった」と感じることがあります。
ただし、30〜40cm程度の読書やスマートフォンまで、必ず眼鏡なしで見えるわけではありません。
50cmより近い距離では、必要に応じて近用眼鏡を使用します。
近方寄りに合わせる場合
PureSeeを近方寄りに設定し、おおむね1m前後から35cm程度までを見やすくする方法もあります。
遠方を見るときには眼鏡が必要ですが、パソコン、書類、新聞、読書など、デスクワーク中心の生活では便利な設定です。
PureSeeは、追加費用を払えば、すべての距離が見えるレンズではありません。
単焦点に近い見え方の質を大切にしながら、眼鏡を使う場面を減らすことを目指すレンズです。
より広い範囲を見たい方にはOdyssey
当院では、回折型の連続焦点レンズであるTECNIS Odyssey(テクニス オデッセイ)も採用します。
Odysseyは、同心円状の回折構造を使って光を複数の距離へ振り分け、遠方・中間・近方35cm前後までを広くカバーします。
当院で採用するレンズの中では、眼鏡を使う場面を最も減らしやすいタイプです。
一方で、回折型であるため、次のような見え方が生じる可能性があります。
- 夜間の光の輪やにじみ
- ハロー・グレア
- 単焦点とは異なるコントラスト
- 暗い場所での見え方への違和感
そのため、Odysseyは次のような方が主な候補になります。
- 眼鏡をできるだけ減らしたい方
- 近方まで裸眼で見たい方
- 夜間運転が多くない方
- 網膜や視神経に大きな問題がない方
- 光のにじみをある程度許容できる方
黄斑疾患などの網膜疾患や緑内障がある方、将来的なリスクが高いと考えられる方については、適応を慎重に判断します。
また、遠方から35cm前後まで見えても、20cmほどの細かな手元には眼鏡が必要になることがあります。
Odysseyも、眼鏡から完全に卒業するためのレンズではありません。
見える範囲と画質のバランスを考えて選ぶレンズです。
現在、当院で選べる眼内レンズ
いわみ眼科では、患者さんの目の状態や生活に合わせて、次の眼内レンズをご用意しています。
保険適用の単焦点レンズ
遠方または近方など、手術後に見え方の中心となる距離を一つ選びます。
鮮明で安定した見え方を得やすく、ハロー・グレアも少ない、白内障手術の基本となるレンズです。
遠方に合わせる場合は、読書やスマートフォンに近用眼鏡を使用します。
近方に合わせる場合は、30〜50cm程度を裸眼で見やすくできますが、遠方には眼鏡が必要です。
少し見える幅を広げた単焦点系レンズ
当院では、EyhanceとNSP-3を採用しています。
厳密にはEDOFではなく、単焦点に近い見え方の質を保ちながら、焦点の幅を少し広げるタイプです。
遠方合わせでは、遠くから1m前後までが少し見やすくなります。
患者さんの実感としては、「老眼が少し楽になる」程度です。読書やスマートフォンには、原則として近用眼鏡が必要です。
近方合わせでは、35〜50cm前後の新聞、パソコン画面、手元作業などを見やすくできます。
保険適用の2焦点レンズ LENTIS Comfort
LENTIS Comfortは、遠方用と近方用の二つの光学部分を持つレンズです。
遠方合わせでは、遠くから70cm前後までを見やすくします。
近方寄りに設定すれば、70〜35cm前後を見やすくでき、パソコン、新聞、読書などのデスクワークに便利です。
ただし、2焦点レンズであるため、光の輪やにじみを感じることがあります。
また、黄斑疾患などの網膜疾患や緑内障がある方については、当院では慎重に適応を判断します。
選定療養のEDOFレンズ PureSee
PureSeeは、単焦点に近い見え方の質を大切にしながら、遠方から50cm前後まで見える範囲を広げるレンズです。
画質を重視しつつ、眼鏡を使う場面を減らしたい方に選びやすいレンズです。
選定療養の回折型連続焦点レンズ Odyssey
Odysseyは、遠方から35cm前後までを広くカバーし、眼鏡を使う場面を最も減らしやすいレンズです。
一方で、夜間の光の輪やにじみ、ハロー・グレアなど、回折型特有の見え方が生じる可能性があります。
乱視がある方には、それぞれ乱視を補正するトーリック眼内レンズも検討します。
選定療養とは
選定療養では、白内障手術の基本部分には健康保険を使用します。
そのうえで、眼鏡を使う場面を減らすための追加機能や、それに必要な追加検査の費用を患者さんにご負担いただきます。
手術全体が自由診療になるわけではありません。
いわみ眼科での費用
2026年8月現在の、1眼あたりの税込費用です。
- PureSee 33万円
- PureSee Toric 37万4,000円
- Odyssey 33万円
- Odyssey Toric 37万4,000円
高価なレンズほど、良いレンズではありません
眼内レンズ選びでは、見える距離だけを比べることはできません。
次のような点を総合して考える必要があります。
- 手術前は、遠方と近方のどちらを裸眼で見ていたか
- 眼鏡やコンタクトレンズをどのように使ってきたか
- 仕事や趣味
- 夜間運転の有無
- 乱視の状態
- 網膜や視神経の状態
- ぼやけや光のにじみへの感じ方
- 見え方の質
- 費用
PureSeeが登場したことで、当院は以前より多くの患者さんの希望に沿えるようになりました。
しかし、選定療養のレンズを全員におすすめするわけではありません。
網膜疾患や緑内障があれば、PureSeeであっても慎重な評価が必要です。
単焦点レンズと眼鏡を組み合わせた方が、より鮮明で安定した見え方を得られる方もたくさんいます。
これまでの見え方を大切に、これからの生活に合う焦点を
白内障手術は、単に濁りを取る手術ではありません。
これまでの見え方を大切にしながら、これからの生活に合う焦点を再建する手術です。
3年前より、眼内レンズの選択肢は増えました。
選択肢が増えたからこそ、レンズの名前や価格だけで決めるのではなく、患者さんがこれまでどのように見てきたのか、手術後にどのような生活を送りたいのかを確認することが大切です。
一人ひとりの目と生活を丁寧に見ながら、その方が納得できる見え方を一緒に考えていきたいと思います。
