「眼底出血」から睡眠時無呼吸症候群が見つかることも―眼循環学会で症例を報告しました
「目の病気なのに、なぜ血圧や睡眠の話をするのですか?」
眼科でそんな疑問を持たれる方がいるかもしれません。
しかし、眼底は体の中でも血管を直接観察できる数少ない場所です。
そのため私たちは、目に起きている変化だけではなく、その背景にある全身の状態にも目を向けることがあります。
2026年7月19日・20日に開催された眼循環学会で、いわみ眼科から
「網膜静脈閉塞症を契機に未診断重症OSAを検出した1例
―眼科診療を睡眠医療連携の入口とする可能性―」
という症例を報告しました。
網膜静脈閉塞症は「目だけの病気」ではありません
網膜静脈閉塞症(RVO)は、眼底にある静脈の流れが悪くなることで、網膜出血や黄斑浮腫を起こす病気です。
視力が低下することもあり、黄斑浮腫に対しては抗VEGF薬の硝子体注射など、眼科での治療が重要になります。
一方で、RVOは高血圧、動脈硬化、糖尿病など、全身の血管リスクとの関連が知られています。
つまり、
「眼底出血を治療する」
だけでなく、
「なぜ、この人に眼底出血が起こったのだろう?」
と考えることも大切です。
高血圧治療中なのに、なぜ網膜静脈閉塞症を起こしたのか
今回報告したのは、高血圧の治療を受けていた男性です。
過去には脳出血の既往があり、網膜静脈閉塞症を発症して、黄斑浮腫に対する硝子体注射治療も受けていました。
当院を受診された際、私たちは眼底だけでなく、
「高血圧を治療しているにもかかわらず、なぜ血管の病気を繰り返しているのか」
という点にも注目しました。
診察室で測る血圧が良好でも、睡眠中や早朝に血圧が上昇する「夜間高血圧」や「早朝高血圧」が隠れていることがあります。
その原因の一つが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)です。
眼科で睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑う
当院では、この患者さんの全身背景に加え、問診や咽頭の状態などから睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑いました。
そこで、睡眠医療を専門とする医療機関へご紹介しました。
専門施設で終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が行われた結果、重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群が見つかりました。
その後、専門施設でCPAP治療が開始されています。
CPAP使用下ではAHIが大きく改善し、患者さんが以前から訴えていた夜間頻尿も改善しました。
ここで大切なのは、いわみ眼科で睡眠時無呼吸症候群の確定診断やCPAP治療を行ったわけではない、という点です。
当院の役割は、
「眼科診療の中から全身疾患の可能性を見つけ、適切な専門医療につなぐこと」
です。
「目を治す」だけで終わらない眼科診療へ
網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫には、硝子体注射などの眼科治療が非常に重要です。
しかし、それは主に目に生じた「結果」に対する治療です。
その背景に高血圧や夜間の血圧異常、睡眠時無呼吸症候群などが存在するのであれば、そちらにも適切な医療が必要です。
今回の症例でも、眼科治療と睡眠時無呼吸症候群への治療は並行して行われています。
その後、黄斑浮腫は約6か月再燃せず、硝子体注射の頻度も減少しました。
ただし、一つの症例ですので「CPAP治療によって眼の病気が改善した」と結論づけることはできません。
だからこそ私たちは現在、網膜の血管疾患と睡眠時無呼吸症候群、夜間低酸素、血圧変動などとの関係について、さらに検討を進めています。
すべての眼底出血に睡眠時無呼吸症候群があるわけではありません
もちろん、
「網膜静脈閉塞症になった=睡眠時無呼吸症候群」
ということではありません。
反対に、睡眠時無呼吸症候群があるから必ず眼底出血を起こすわけでもありません。
大切なのは、患者さん一人ひとりの眼底所見、既往歴、血圧、生活背景などを合わせて考えることです。
特に、
高血圧の治療中なのに網膜静脈閉塞症を発症した方、
眼底出血を繰り返している方、
いびきを指摘されている方、
夜間頻尿や日中の強い眠気がある方などでは、
眼科以外の背景にも目を向ける意味があるかもしれません。
必要と判断した場合には、当院から睡眠医療や内科などの専門医療機関へご紹介します。
目は、全身を見るための「窓」でもあります
いわみ眼科では、眼の病気を正確に診断し、必要な治療を行うことを第一にしています。
そのうえで、眼底に現れた変化を全身からのサインとして捉える必要がある患者さんには、もう一歩踏み込んで背景を考える。
そして眼科だけで完結できない病気については、適切な専門医へつなぐ。
私たちは、そんな診療を目指しています。
「目だけを見る」のではなく、
目からその人の未来を考える。
今回の眼循環学会での発表は、私たちが日々行っている診療を改めて形にした一例となりました。
