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啓蒙活動の話

「啓蒙」だけで終わらせない。芦屋の空の下で、私がひっそりと続けてきた「子どもの目を守る戦い」の記録。

診察室で、毎日多くの子どもたちの目を見つめています。 
「視力が落ちたね」「少し近視が進んでいるね」 
そう伝えるたびに、私の胸の奥には、ある「焦り」と「願い」が渦巻いてきました。

私は日々、非常に多くの患者さんを診ていますが、全ての近視の子どもたちを診られるわけではありません。
診察室という「局所」だけでなく、社会という「全体」を変えなければならない。
そう考えて、私は診察の傍ら「もう一つの活動」を続けてきました。
それは、社会や行政という厚い壁に挑むものでした。

なぜ私が、そこまでして声を上げ続けるのか。
昨年末、私の第1回のアプローチは、一つの区切り——あえて言えば「惨敗」という形で決着を見ました。
今日はその背景と、これからの決意を記したいと思います。
すべては、子どもたちの50年後の景色を守るためです。

1. 近視は「不便」ではなく「病気の入り口」

近視は、決して「メガネをかければ解決する問題」ではありません。
強度の近視は、将来的に失明にもつながりかねない重篤な病気を引き起こす、まさに「万病の元」なのです。

  • 網膜剥離:リスクは約10倍 〜 20倍
  • 緑内障:リスクは約3倍 〜 5倍に (※Haarman et al., 2020等の研究データより)

これらは、適切な治療がなければ視力を失う恐ろしい病気です。 
文部科学省の統計では、視力が1.0未満の小学生の割合は、統計が始まった昭和54年の約18%から、現在は36%を超え、約2倍に増えました。

単純に計算すれば、将来、緑内障や網膜剥離に苦しむ方の数も今の「2倍」になる可能性があるということです。

現在、子どもたちの近視が増えている主な原因は2つ。
デジタルデバイスの普及に代表される「近業(近くを見すぎること)」の増加と、「屋外活動」の減少です。
家の中で目の前の画面に夢中になっている子どもたちの背後には、そんな残酷な未来が忍び寄っているのです。

2. 芦屋市からの挑戦。スモールシティだからこそできるのでは

この危機を止めるため、私が注目したのは「外あそび」の力です。 
「外あそび推進の会」の先生方が国へ働きかけ、こども家庭庁の基本方針にその重要性が記載されるまでになりましたが、実際の「街のルール」を変える社会実装には、まだほど遠いのが現状です。

そこで私は、わが街・芦屋市にアプローチを始めました。
芦屋市は人口規模がほどよく、市民の声が届きやすい「スモールシティ」です。
ここで近視予防の成功モデルを作ることができれば、日本中の自治体へと波及させていける。
そう信じて、今日まで以下のような活動を水面下で続けてきました。

  • 芦屋市「第5次総合計画」への提言: パブリックコメントとして、エビデンスに基づいた「外あそび推進による近視予防」を市長や担当部署へ届けました。
  • 岩岡りょうすけ市議会議員へのレクチャー: 岩岡議員に直接この危機の深刻さを伝え、市議会の場でも「外あそび推進」について議論していただきました。

しかし、行政の回答は「啓蒙は行うが、外あそびを増やす具体的な検討は難しい」という段階に留まりました。

私は強く思います。
「子どもを守る」ことは、社会において「絶対の正義」であるはずです。
単に「外あそびをしましょう」と呼びかけるのではなく、
「外あそびをする」ことを前提として、それを邪魔している障害は何なのか?(公園の禁止事項、放課後の環境、大人の固定観念など)を徹底的に考え、取り除いていく。
それこそが、今を生きる大人たちが果たすべき責任ではないでしょうか。

3. 日本の社会は、まだ「優しくない」からこそ

もう一つ、私が声を上げ続けなければならない理由があります。
それは、日本の医療制度や社会の歩みがあまりに遅く、子どもたちに「優しい」とは言い難い状況だからです。

例えば、近視抑制に効果がある「低濃度アトロピン」点眼薬。海外では標準的な治療として普及していましたが、日本での承認は大幅に遅れました。
承認後も、診察や検査も含めた全額自己負担の「自由診療」が続き、救われるべき家庭に重い経済的負担を強いてきました。

この度、ようやく診察代などに保険が適用される「選定療養」へ移行する方針が示されましたが、これは「優しくなった」のではなく、「ようやく、あるべき姿に一歩近づいただけ」に過ぎません。

医療も、行政も、歩みは緩やかです。誰かが叫び、扉を叩き続けなければ、子どもたちの成長速度には追いつけないのです。

4. 結びに:この「小さな灯火」を、明日へつなぐために

一人で資料をまとめ、記事を書き、パブリックコメントを送り、議員の方に想いを伝える……。そんな日々の中で、「岩見がまた何か言っている」と冷ややかな視線を感じ、深い徒労感に襲われる夜もありました。

正直に申し上げます。行政への第1回のアプローチの結果は、「惨敗」でした。 岩岡議員も精一杯動いてくださいましたが、組織や制度という壁は、想像以上に厚く、高いものでした。

しかし、この惨敗で心が折れたわけではありません。むしろ確信したのです。行政を動かすには、一部の専門家や議員の声だけでは足りない。今こそ「世論」を味方につける時なのだと。

子どもたちの50年後の景色を守るために。 特別なことではなく、当たり前の「外あそび」が当たり前に推奨される世の中を、一緒に作っていきませんか。まずはお子さんと一緒に空を眺め、遠くの緑を数えることから始めてみてください。

一人の声は小さくても、皆さんの想いと重なれば、それは社会を動かす大きな波になります。私はこれからも、子どもたちの健やかな瞳のために、診察室の内と外で戦い続けます。

この活動はまだ始まったばかりで、私の力不足もあり、今はまだ小さな灯火に過ぎません。 もし、私の想いに「大切なことだ」と共感していただけたなら、どうかこの内容を周りの方へ伝えていただけませんか。子どもたちの未来の景色を守るため、この波紋を絶やさず、明日へとつなげてもらえることを切に願っています。

関連リンク集

詳しい背景や、私が協力・参考にしている方々の情報は以下をご覧ください。

【私が寄稿した近視治療・解説記事(ママ広場)】

【行政・議会への働きかけ記録】

【外あそび推進の会】

【低濃度アトロピン点眼 リジュセアミニ選定療養化について】

厚生労働省より個別事項について

【岩岡りょうすけ議員(芦屋市議会)】

  • 公式Instagram:岩岡りょうすけ
    議員自身も強度近視であり、大変興味を持って私のお話を聞いて頂きました。外あそび推進のための議案の立案から市議会での質疑応答まで、非常に熱心に活動していただきました。この場を借りて厚く御礼を申し上げます。