緑内障治療にレーザー治療という選択肢
はじめに
近年、緑内障の治療には非常に様々な選択肢が出てきています。
点眼は5系統(PG系、β遮断薬、CAI、ROCK阻害薬、α2刺激薬)になり、
レーザー治療は侵襲(負担)の大きかったALTから目に優しく効果的なSLTになり、
手術もMIGS(低侵襲緑内障手術)を始め、新しいデバイスが数多く開発されて非常に充実しています。
ではどの順で治療を開始すべきか、新たな問題が発生してきます。
どのように考えていけばよいでしょうか。
緑内障レーザーの地位向上のきっかけ
イギリス発で緑内障に対してSLTレーザーを第一選択として行った報告が、最も有名な英文雑誌の一つであるLancetに掲載されました。
レーザー治療で78.2%の方が緑内障点眼を必要としなかったとしています。
さらに2つ目の報告はその後6年追いかけたトライアルの結果です。
レーザー治療群では7割が薬物治療や手術治療を行わず、6割強は1回のレーザー治療で眼圧が維持できたというものです。
欧米の緑内障レーザー治療の現状
このLiGHTトライアルの結果を受けて、海外の緑内障ガイドラインは書き換わっています。
イギリスの緑内障ガイドラインではまずレーザー治療を提示して、希望されない場合だけ点眼から開始するというものになっています。
ヨーロッパ緑内障学会のガイドラインでは点眼とレーザー治療がいずれも初回治療として認められています。
レーザー治療の機械が高額ということもあり、各国の医療事情によりレーザーを強く優先させるのは難しいのかもしれません。
では日本人の緑内障も同様に考えてよいのか?
注意が必要なのは欧米人の緑内障は高眼圧が多く、アジア人の緑内障は正常眼圧が多いという点です。
同じものだと安易に考えてはいけません。
2022年2月に発表された日本の緑内障ガイドライン(第5版)ではまだレーザー治療は点眼の補助治療という位置づけのままです。
しかし、このあたりのアジア人における緑内障レーザーの研究も進んできました。
中国での緑内障レーザーの研究
中国における同様のレーザー研究も行われました。
同様に有効だったのですが、これもあくまで眼圧の高い患者さんを対象にしています。
ついに日本の正常眼圧緑内障に対しての研究結果が
今年(2024年)の4月、日本人の正常眼圧緑内障に対するレーザー治療の多施設共同研究を行った論文がpublishされました。
初回治療としてレーザー治療を行った群で89.2%に有効であったという結果が出ております。
高い眼圧を下げるとなると数字が大きいので、例えば25mmHg→18mmHgで7mmHg下がりました、しっかり効いてますねということが言いやすいです。
しかし正常眼圧緑内障の世界は1-2mmHg下げるのが大事という領域です。
この正常眼圧緑内障における治療評価をどうするかというのがこれまで世界中で明確な基準がありませんでした。
本論文は上強膜静脈圧を勘案したΔIOPというものを計算して、これで治療効果を判定した点も画期的でした。
エビデンスレベルも高く、これからさらにデータが蓄積されていくでしょう。
日本人の緑内障にとって、レーザー治療をやっと選択肢に入れて良いだろうと考えます。
緑内障レーザーと点眼の比較(患者サイドに立って)
表にまとめてみると、緑内障レーザーと緑内障点眼の治療効果は変わりません。
安いのは点眼治療になります。
今は緑内障点眼にも後発品の種類がたくさんありますので、費用はそれほど上がりません。
楽なのはまずレーザー治療でしょう。
レーザー治療は効いている間はメンテナンスフリーになりますので、通院で眼圧や視野を確認するだけでOKです。
毎日点眼を続けることは意外に難しく、勤労世代や高齢世代は確実な治療継続(アドヒアランス)が難しいとも言われています。
点眼の眼球、及び目の周りへの負担は累積してきます。
緑内障は診断されると基本的に治療が一生続きますので、点眼は大変さがかなりあります。
点眼が出来ていない=治療が中断されているということになりますので注意が必要です。
これからの緑内障診療
緑内障レーザーに関しては日本人のデータがこれから蓄積されていくでしょう。
しかし現時点でも良いデータが得られてきています。
当院でもレーザー治療の施行件数が300件を超えました。
新しい情報を得て、患者さまのライフスタイルに合った治療を提供できれば良いなと思います。